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読書感想文・メンタルヘルスについてのあれこれ等。「何者でもない」者の日々の憂い

「夜と霧」(新訳)ヴィクトール・フランク

読書感想文…エッセイ・小説

夜と霧 新版 | ヴィクトール・E・フランクル, 池田 香代子 |本 | 通販 | Amazon

 

 本タイトルの原題は、「ある心理学者が強制収容所を体験する」。

 「アンネ・フランクの日記」と共にナチス=ドイツ支配下の被虐民たちの暮らしの様子・強制収容所のリアリティを語り継ぐ物語とされ、戦後長く読み継がれてきたもの。

 

 しかし、心理学者・精神医としてかのアドラーフロイトに師事した経験も持つ著者の意図として、「戦争の物語」ではなく「戦時下の収容所の様子を背景とした人間の洞察の記録」であることは、極めて明白です。

 例として、長く反戦記として挙げられていた旧訳版では「ユダヤ人」という翻訳が目立ちます。しかし原文・新訳ともにこの語が出現する回数は1~2度にしか及ばず、強制収容所の収監対象となった人々に「同性愛者や遊牧民たち、その他異民族や特殊な階級」が含まれていたことを暗示しており、民族浄化にまつわる悲劇を主題としていないことがここから読み取れます。

 

 本項は、前半と後半に分かれます。

 前半は、かのアウシュビッツ行きの列車から収容所の様子・収容所から収容所へと移送される生活、終に赤十字社の車がきて、解放されるまでの体験記。

 後半は、極度の緊張状態・自由を亡くし束縛された状態での人間心理の洞察録。自己の洞察と集団心理の解釈、ハイデッガードストエフスキーが陳述した考察に基づく、実録への注釈という形で著述の展開がなされます。これはもはや「強制収容所における生活について」限定された話ではなく、前述の特殊な状況に置かれたときに人間の生を考え直すという、著者自身すらをも試験管に入れたような真に迫るものと言っても過言ではありません。

 

 ここで記述の主題を変えると、昨今の日本では過労死や精神疲労による自殺、あるいは家庭環境の問題など、肉体的あるいは精神的に自由を失った人が少なくありません。

 かく言う私も、初めて本作を読了したのは10代後半のこと、母の統合失調症が悪化する中で身寄りもなく、家庭内の暴力を受けたり軽度の軟禁状態に置かれていた時のことでした。本作は精神医学・実存主義をメインとした哲学の入門書としての入り口になっただけではなく、

 「苦しみのなかで、何が自らを人たらしめるのか」のを熟考し、その後の生き方を決定づける一因となった書です。

 

 何らかの束縛により人間としての尊厳を失いつつあるという自覚のある方、あるいはそれ以外の人にも、人としての生を客観的に解釈するべくぜひ一読してほしい書です。

 

 終わり。